養育費・婚姻費用の増額

養育費が少なすぎると思ったことはありませんか?
→算定表から得られた結果から増額できる場合があります。

養育費の相場について調べてみて、支払ってもらえる養育費の金額が少なすぎると思うことはないでしょうか。この記事は、そのように思った方に読んでいただければ幸いです。

養育費は「算定表」で決まるのが原則

「養育費 相場」で検索すると、養育費の額は、「算定表」で決まるということが書かれていると思います。

→この記事では、算定表についての基本的な説明はしません。ご了承ください。

算定表を掲載している裁判所のリンクを貼っておきます。

平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について | 裁判所
裁判所のホームページです。裁判例情報、司法統計、裁判手続などに関する情報を掲載しています。

おそらく予備知識なしに調べた方は、請求できる養育費の額が少なすぎると感じたと思います。

現在の裁判実務では、算定表にあてはめることが、大前提になってしまっているので、裁判所を通じて解決する場合、算定表で算出された金額を大きく上回る金額は期待できません。優秀な弁護士に委任しても、収入額などの前提条件が同じである限り、大幅な増額はできません。

増額できる場合があります

この記事を読んでいただければ、若干の増額を実現できるかもしれません。若干の増額と言っても、養育費の場合、毎月支払われるものですので、月額1万円の増額でも、1年で12万円、10年では120万円の増額となります。この差は小さくはないと思います。

増額できる理由は、個別の事情によりますが、ここでは典型的なケースを二つご案内します。

通勤手当について

1つ目は、通勤手当です(給与所得者の場合です)。義務者(多くの場合父親)が通勤手当を別途支給されている場合、増額できるかもしれません。

算定表にあてはめてみる際、源泉徴収票の「支払金額」の欄の数字をあてはめると説明されることがほとんどです。この金額は、いわゆる給与所得者の「年収」であり、基本給だけでなく、職務手当、時間外手当、ボーナスなどの各種手当が含まれています。この説明は、基本的には誤りではなく、裁判所でもそのように説明されると思います。

しかし、この「支払金額」には、通勤手当は含まれていません。会社が通勤手当を支払っている場合、その会社に勤務している人は、実際には「支払金額」の他に、通勤手当も受け取っているわけですから、「支払金額」に通勤手当を加えた金額が、その人の実際の年収ということになります(ただしこの点については異論もあり、通勤手当を総収入に含めないと判断した裁判例もあります)。算定表にあてはめる際は、「支払金額」+通勤手当の金額を使うということになります。

なぜそうなるのかについては、簡単にご説明すると、「算定表の作成の基になった標準算定方式の考え方によると、基礎収入を算定する際に、通勤費を含む職業費を控除することになっているからそうなる」ということになりますが、ここだけ読んでも意味が分からないと思います。
この点をご理解頂くためには、標準算定方式の考え方を理解する必要があるので、ここではご説明を省きます。
この点について関心のある方は、日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会/編「養育費・婚姻費用の新算定表マニュアル」に分かりやすく記載されていますので、ご参照ください。下に新日本法規のリンクを貼っておきます。

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裁判の現場では、通勤手当を加算して養育費の額を算定するよう求めると、担当する調停委員及び裁判官によっては、「分かりました。」と言って、異論なく加算することに同意してくれる場合とそうでない場合があります。

異論が出るのは、調停委員や裁判官は、標準算定表の考え方をよく理解していないからではないかと思いますが、いずれにしても、なぜ通勤手当を加算するのかということを掘り下げて説明する必要があります。場合によっては、この点について理解している弁護士に委任した方が良いかもしれません。

因みに権利者が通勤手当を支給されている場合は、権利者の年収についても同じように通勤手当分を加算する必要があります。

では、通勤手当を加算するとどのような結果となるかご説明します。

父親の年収(「支払金額」)が600万円、母親の年収が125万円、子どもが14歳未満、母親が子どもの親権、監護権を持つというケースで、父親の通勤手当が月額2万1000円、母親の通勤手当はなしという場合について検討します。

年収600万円で算定表を見ると、6から8万円の下から2コマ目となります。これに対し、通勤手当分(年額約25万円)を加算し、年収625万円で算定表を見ると、6から8万円の下から3コマ目となります。月額5000円から1万円程度の増額を見込めると思います。

このように加算の対象となるのは、通勤手当に限られるわけではありません。加算の対象となるのは、標準算定方式で、総収入から基礎収入を算出する際に控除する対象となっている「被服費、交通・通信費、書籍費、諸雑費、交際費等」ですが、養育費の金額に影響が出るほどの金額が支払われているケースは少ないかもしれません。

住居費について

2つ目は、住居費です。義務者(多くは父親)が、家賃や住宅ローンの負担のない家に住んでいる場合、増額が認められるかもしれません。

この点もやはり、算定表の作成の基になった標準算定方式の考え方によると、住居費を負担していない義務者(多くは父親)の場合は、増額されるということになります。

標準算定方式の考え方は、義務者が住居費を負担していることを前提に、養育費の金額を算定しています。言い方を変えますと、養育費の金額は、義務者がある程度の住居費を負担しているとしても、支払えるであろう金額となるように算定することにしています。翻って考えれば、義務者が住居費の負担をしていないのであれば、義務者が支払える養育費の金額は、増額することができるということになります。

またこの考え方に従うと、義務者は住居費を負担している一方、権利者が住居費を負担していない場合(権利者がその実家に同居しているとか住宅ローンの負担のない持ち家に住んでいるなどの場合)、むしろ養育費の金額は、減額するよう修正すべきということになります。

裁判実務では、このような考え方は、まだ一般的となっているわけではなく、全く考慮されないこともあるかもしれません。

しかし義務者が住居費を負担している場合と負担していない場合とで、義務者が支払うべき養育費の金額が全く同じということは、住居費の負担がない場合の義務者の実際の負担額(生活費)が不当に軽くなってしまい、不公平ですし、標準算定方式の考え方にそっていません。

この点を考慮しないという裁判所の運用を変えていく必要があると思います。

なお権利者が住居費を負担していない場合に、具体的に養育費をどのように算定するのかについては定まった見解などはありません。どのように養育費の額に反映させるかについては別の記事でご説明する予定です。

この問題についても、調停委員が全く考慮しようとしない場合は、やはり弁護士に委任した方が良いかもしれません。

義務者に、給与所得以外の収入がある場合

ケースによっては、給与所得者でも、会社からの給与所得以外の収入がある場合もあります。その場合は、その収入について、「年収」に加算して算定表にあてはめてください。

その収入が副業による収入の場合は単純に加算すればよいのですが、いわゆる不労所得の場合は、職業費の負担がありません(その収入を得るために経費がかからない)ので、単純に加算するだけでは、十分に収入を評価していることにはなりません。解決の方法はいくつかありますが、そのケースの給与所得の収入額と同じ養育費の負担となる自営業者の収入額に置き換えて、その金額に不労所得の金額を加算して、自営業者として算定表にあてはめて養育費の金額を算出するという方法があります。

たとえば、上記と同じように、父親の年収(「支払金額」)が600万円、母親の年収が125万円、子どもが14歳未満というケースで考えてみます。父親に不労所得が250万円あったとします。

そのまま250万円を加算して、年収850万円の給与所得者として算定表にあてはめると、養育費の額は、8万円から10万円の中央(9万円)となります。

しかし給与所得者600万円の場合、同じ養育費の負担となる自営業者の収入額は453万円ですので、この金額に不労所得250万円を加算し、703万円の収入額の自営業者として算定表にあてはめますと、養育費の額は、10万円から12万円の下限の1コマとなります。不労所得の額が大きいほどこの差額は大きくなります。

結び

以上のことは、婚姻費用を請求する場合にも言えることです。
実際には、個別の事案ごとに、増額できる場合、できない場合があります。ご自身の場合に増額できるかどうかを知りたいという方は、養育費、婚姻費用の問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

なお当事務所では、オンライン法律相談を実施していますので、お近くにお住まいでなくても相談対応可能です。
オンライン法律相談については、以下をご参照ください。

実際に代理人となって対応するということになりますと、遠方の場合、出張旅費をご負担いただく必要がありますので、現実的ではありません。代理人を選任されたい方は、お近くの弁護士への委任をご検討ください。

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