裁判離婚のデメリット

この記事では、離婚裁判のデメリットについてご説明します。この記事が離婚裁判回避の一助となれば幸いです。

離婚の方法には、当事者が協議して離婚について合意し、離婚届に署名捺印してそれを役所に提出し、離婚を成立させる協議離婚と、当事者が裁判所に申立てをして、裁判手続きで離婚を成立させる裁判離婚があります。

かつては、裁判離婚で離婚する割合は全体の10%程度とされていましたが、市民の弁護士へのアクセスが改善されたことなどを背景に、裁判離婚の割合が増加しています。

しかし裁判離婚のデメリットが大幅に改善したわけではありません。裁判離婚のデメリットを考慮すると、裁判離婚はできる限り避けるべきで、離婚裁判は、必ずしもお勧めできません。

協議離婚で離婚するか、裁判離婚で離婚するか迷われている方は、離婚裁判のデメリットを十分に検討することをお勧めします。

裁判離婚の主なデメリット

裁判離婚のデメリットとしてよく指摘されるのが、(1)離婚成立までに時間(期間)がかかること、(2)費用がかかることなどです。

離婚成立までにかかる時間(期間)は、離婚訴訟を含む民事訴訟全般の審理期間が、かつてよりは短期間となっているために、多少改善されました。しかし、相当の時間(期間)がかかることに変わりありません。また費用について、民事法律扶助制度の充実や弁護士数の増加などに伴い、弁護士の費用を低く抑えることができるケースもありますが、一概に安くなったとは言えません。

裁判離婚のデメリットとしてはさらに、裁判手続を通じて、相手方から結婚生活の中で感じた不満を言われたり、非難されたりすることがあります。あるいは自身の主張が裁判所の人に理解されないなど、思うように進まず、精神的な負担を感じることもあります。また調停のために裁判所に出頭したり、弁護士との打ち合わせのために出かけたりする必要があり、時間も取られます。調停は非公開ですが、離婚訴訟は公開の裁判です。尋問は公開の法廷で行われます。

裁判離婚のデメリットは、多くの場合、一方当事者だけでなく、離婚当事者の双方が受けます。また未成年の子どもがいるケースでは、子どもへの悪影響も考える必要がありますが、この記事ではその点については掘り下げません。

上述しましたように裁判離婚のデメリットを考慮すると、裁判離婚はできる限り避けるべきで、離婚裁判は、必ずしもお勧めできません。

協議離婚のデメリット(?)

協議離婚のデメリットとして、よく指摘されているのが、(1)当事者同士では冷静な話し合いができないとか、(2)裁判離婚の場合は、慰謝料や養育費の支払いを約束したのに、支払をしない場合、強制執行することができる一方、協議離婚ではそれができないという点があります。

しかし、(1)の問題は、裁判をしなければ解決できない問題ではありません。第三者に話し合いに入ってもらえば良いと思います。実際、協議離婚する際、第三者が何らかの形で関与しているケースは少なくないのではないでしょうか。また協議離婚の段階で弁護士が関与することも可能です。この点については別の個所であらためて記載します。

(2)の支払をしなかった場合については、執行認諾文言付き公正証書というものを作成しておけば、基本的には協議離婚の問題は解消します。

つまりよく指摘される協議離婚のデメリットについては、弁護士などの第三者に相談し、かつ協議で決めた条件について、執行認諾文言付き公正証書を作成することで回避することができます。

協議離婚が可能な場合に、あえて裁判離婚を選択する価値はほとんどないと私は考えています。

離婚給付等契約公正証書作成例とそのポイントについては、次の記事をご参照ください。

協議離婚できないケースも

ただ事実上、協議離婚できず、裁判離婚するしかないケースもあります。次のようなケースは、裁判離婚するしかありません。

夫婦の一方が離婚しようとしているときに、相手方が行方不明となってしまったという場合があります。夫が妻と子どもをおいて出て行ってしまい、生活費も支払わず、離婚したくても連絡に応じないというようなケースです。妻としては夫が生活費を負担しない以上、早々に離婚してひとり親世帯としての行政の支援等を受けたいところです。

また離婚するかしないかで、意見が一致せず、協議離婚できない場合や親権をどちらがとるかを決めることができない場合も協議では結論は出しにくく、折り合いがつかなければ最終的には離婚裁判を選択するしかありません。

しかしそのようなケースの場合、裁判離婚のデメリットを十分検討することで、離婚裁判を回避できるのに、正しく検討できずに、裁判離婚を選択するケースがあると思います。

具体例についての検討

次のようなケースについて離婚裁判の具体的なデメリットについて考えてみたいと思います。

私が実際に代理人としてかかわったケースをもとに、事案を一般化抽象化、あるいは一部変更してご説明します。

結婚して10年になる夫婦の夫が女性と関係を持ち、その女性が夫との間の子を妊娠、出産し、既にその女性と生活しているというケースで、夫は妻に対し不貞行為を認め慰謝料として300万円を支払うから離婚してほしいと申し入れた。しかし妻は絶対に離婚しないと主張している。なお夫の年収は約1000万円であり、妻の年収は100万円である。

事案のポイント

  • 夫婦間に未成年の子はいない
  • 夫は不貞行為を認め慰謝料として300万円を支払うと言っている
  • 不貞の相手方との間に婚外子がいる
  •  夫の年収は1000万円、妻の年収は100万円であり、収入差が大きい

この場合、裁判離婚を選択すべきでしょうか。あるいは、どこかで妥協すべきでしょうか。妥協するとしてどのような内容で妥協すべきでしょうか。

妻は、絶対に離婚しないと言っている以上、夫としては、協議離婚を選択する余地はなく、裁判で離婚を求めざるを得ないようにも思えます。

しかしこのようなケースの場合、夫としても妻としても、条件についてよく検討したうえで、協議離婚の余地がないのかよく検討する必要があります。

一般的には不貞行為をした当事者(有責配偶者)からの離婚請求は認められない可能性があります。つまり裁判で離婚について争ったとしても、そもそも離婚自体認めてもらえない可能性があります。

また事情によっては、裁判で離婚が認められるかもしれませんが、妻側が争えば、離婚裁判が終了するまでに、何年もかかってしまうと思います。

さらに裁判の代理を弁護士に委任すれば、弁護士の費用もかさんでしまいます。

なお裁判の費用が掛かるという点については妻側にも言えることです。

それぞれの立場でどのような経済的負担が発生するのかについて検討します。

夫側の負担について

離婚成立までの間、婚姻費用を負担しなければなりません。

夫は、夫の収入が1000万円、妻の収入が100万円であることを前提とすると、夫は妻に対し月額15万円程度の婚姻費用を支払わなければなりません。

1年で180万円、3年で540万円です。

なおこれは、別居している場合に支払うべき金額です。妻は夫の家事を分担していないから、婚姻費用を負担するのはおかしいと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実際の裁判で、そのような理由で婚姻費用を負担しなくてよいとの判断はされないのが通常です。

つまり離婚するかしないかについて裁判で争っている間に、上記の例の夫は、妻に対し3年で540万円の婚姻費用を支払わなければなりません。

また不貞行為に対する慰謝料を支払わなければなりません。金額は事情によっては300万円とならない場合もあるかもしれませんが、弁護士の費用を加算して330万円となる場合もあります。しかも不貞行為については、年3%の遅延損害金を支払わなければなりません。

さらに弁護士の費用も念頭に置いておく必要があります。調停については、弁護士に委任せず、ご自身で対応できても、離婚訴訟については、代理人として弁護士に委任せざるを得ないと思います。着手金、成功報酬、その他もろもろの費用を合わせると100万円以上となるのではないでしょうか。

夫側としては、これらの金額の合計額(540万円+330万円+100万円)程度は、支払う覚悟をもって妻側に早期離婚を求める必要があります。

<裁判離婚の場合に見込まれる夫の経済的負担>

3年間の婚姻費用:540万円

慰謝料:330万円

離婚裁判に伴う弁護士等の費用:100万円

離婚裁判となった場合の弁護士の費用分を妻側に支払うべき理由については、後述します。

妻側の負担について

妻側としてはどうでしょうか。

妻側としては、裁判離婚の場合、やはりまず弁護士費用がかかるということを念頭に置く必要があります。

着手金を支払うことになるほか、婚姻費用月額15万円、および慰謝料330万円について、成功報酬を支払う必要があります。報酬の額は契約内容にもよりますが、経済的利益の10%とした場合、婚姻費用を540万円、慰謝料を330万円とすると、成功報酬は、95万7000円(税込み)です。

協議離婚でもそれを弁護士に委任すると経済的利益に応じて報酬はやはり発生しますが、裁判離婚よりも低く抑えられるのではないでしょうか。この点は実際に依頼する弁護士によっても違いますので、依頼する前に見積もりを取るか、委任契約書などで報酬等費用の見込み額を確認することとお勧めします。

また裁判ということになりますと、夫側が離婚請求を裁判所に認めさせるために、妻側の問題点を主張する必要があります。夫側の代理人から、あることないことを主張され、それらに対して一つ一つ検討して反論しなければならず、精神的に疲弊します。

さらに婚姻費用は、結婚の期間中に支払われるものです。より多くの婚姻費用を受取りたいと考える場合、離婚成立の時期を遅らせる必要があります。つまり裁判の期間が長期化した方が良いということになります。妻側からしたら、夫の不貞行為で始まった離婚裁判について、長期間、付き合わなければならなくなるわけです。これは精神的にはやはり負担が大きいと感じる方が多いと思います。

以上のように、妻側としても裁判離婚のデメリットが大きいです。

ちなみに、有責配偶者からの離婚請求は認められないとされていましたが、婚姻が破綻し実態がなく回復の見込みがないようなケースについては、有責配偶者からの離婚請求であっても裁判所は認める傾向にあると思いますし、上述のケースでは婚外子が生まれていることなども考慮すると、離婚請求が認められる可能性は低くないと思います。妻側としてはこの点も考慮する必要があります。

やはりこのデメリットを回避するためには、妻側としても協議離婚が望ましいということになります。

早期離婚の際、念頭に置くべき事項

妻側としては、早期に協議離婚に応じる際に、念頭に置いておく必要がある点があります。

その一つに、健康保険の問題があります。夫と離婚する前に、夫の扶養に入っている場合、健康保険料を直接、負担する必要がなくても、離婚成立後は、国民健康保険に加入するなど、保険料(保険税)の負担が必要となるということが考えられます。

また、万一の場合についてですが、離婚前は配偶者には、相続権や遺族年金の受給資格など法律上、一定の地位が与えられていますが、離婚成立した時点で、法的な地位が失われます。

夫側としては、離婚によってこのような不利益を妻側に強いることになることを考慮し、早期の離婚について妻の了承を得るために、離婚裁判となった場合、妻が受け取る見込みの金額に、ある程度の上乗せをするのが妥当です。

離婚裁判となれば、負担することが見込まれる弁護士費用については、その上乗せ分として妻に支払うということも検討してよいと思います。

上記の事案では、妻側としては、通常、慰謝料、離婚成立までの婚姻費用見込み額、+αを受取ることを期待するはずです。このような状況の下で、慰謝料300万円を支払うから離婚してほしいと言ったところで、妻側がこれに応じるはずがありません。

繰り返しになりますが、妻としては直ぐに離婚しなければ、毎月15万円の婚姻費用を受取ることができますが、離婚してしまうと婚姻費用を受取ることができなくなります。また健康保険や相続、遺族年金などことも考慮すると早期の離婚に応じる動機付けがありません。

夫側としては、裁判離婚を避け、協議離婚を成立させるために妻側にとって早期の離婚に応じる動機付けとして相応しい条件を提示する必要があります。

一つのケースを想定して、裁判離婚のデメリットについて検討してきました。当然、事情は事案ごとに異なります。上記のケースと全く同じ問題が、別のケースにそのまま当てはまるわけではありません。ただ裁判離婚の場合、時間(期間)がかかること、弁護士に委任すれば、高額の費用を負担しなければならないこと、裁判自体が当事者にとって負担となることといった一般的なデメリットは、ほぼすべてのケースに当てはまります。

裁判離婚を回避し協議離婚で離婚を成立させるられるのであれば、極力回避することをお勧めします。

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