日本では、離婚届を役所に提出し受理されれば、離婚が成立します。離婚する際には未成年者の親権者については指定する必要がありますが、慰謝料や養育費の支払については決める必要がありません。
しかし多くの場合、離婚に伴う慰謝料は支払うのか、財産分与はどうか、さらには夫婦間に未成年者がいる場合、養育費の支払をどうするのかなど金銭の支払についても決める必要があります。
金銭の支払については、口頭で合意した場合も理屈上は有効ですが、書面を作成するのが望ましいですし、毎月養育費を支払うことになる場合、慰謝料や財産分与について分割で支払うという場合は、公正証書を作成することをお勧めします。
この記事では、公正証書にどのような内容を記載するのかについて、作成例に沿ってポイントをご説明します。
この記事は、次の方が対象です。
・離婚することについては合意しているか、または合意見込みである方。
・離婚成立後、一方が他方へ養育費及び/または慰謝料などを分割で支払いを受ける予定の方。
・養育費や分割金の支払に不安がある方。
なお以下でご説明するのは、一つの例ですので、上記の対象者であっても実情に合っていない場合がありますのでご了承ください。
また実際には、公証人に大まかな合意内容を伝えれば、具体的な規定は、公証人が作成してくれますので、当事者の方は、具体的な規定を文書化する必要がありません。
当事者の方が決める必要がある項目には以下のようなものがあります。
・親権者をどちらにするか
・養育費の金額、支払方法、終期
(通常は、毎月一定額を振り込むという方法で支払うこととします。終期は多くの場合、20歳※です。また大学進学を予定している場合は、大学卒業見込みの時期までとすることも多いのが実情です。)
※18歳ではなく、20歳となることについて、説明した記事がありますので、その点は以下をご参照ください。
・慰謝料などの解決金の金額、支払方法
(たとえば、基本的には500万円支払うという合意をし、分割で期限通りにたとえば300万円を支払えば、残額は免除する、という内容で合意することもあります。)
・財産分与をどうするのか。
・年金分割をどうするのか。
下の作成例は、年金分割について定めていませんので、ご注意ください。
第1条【離婚の合意等】
当事者(夫)甲山翔太(平成〇年〇月〇日生、以下「乙」という。)と当事者(妻)甲山美咲(平成〇年〇月〇日生、以下「甲」という。)は、本日、甲乙間の長女である未成年の甲山凛(令和〇〇年〇月〇日生、以下「凛」という。)及び甲乙間の長男である未成年の甲山蓮(令和〇〇年〇月〇日生、以下「蓮」という。)の親権者をいずれも甲と定め、甲において監護養育することとして協議離婚すること(以下「本件離婚」という。)を合意し、かつ、本件離婚に伴う給付等について、次条以下のとおり合意した。
このケースでは、公正証書を作成する時点で、まだ離婚届を提出していませんので、親権者及び監護者をどうするかを定めています。既に離婚が成立している事案では、このような規定は必要ありません。
第2条【養育費】
1 乙は、甲に対し、凛の養育費として、離婚届出の有無にかかわらず、令和〇年〇月から令和〇年〇月(凛が満20歳に達する日の属する月)まで1か月金5万円ずつを、毎月末日限り、甲が指定する甲名義の普通預金口座に振り込む方法で支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。 2 乙は、甲に対し、蓮の養育費として、離婚届出の有無にかかわらず、令和〇年〇月から令和〇年〇月(凛が満20歳に達する日の属する月)まで1か月金5万円ずつを、同年〇月から令和〇年〇月(蓮が満20歳に達する日の属する月)まで1か月金万円ずつを、毎月末日限り、甲が指定する甲名義の普通預金口座に振り込む方法で支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。 3 甲及び乙は、凛および蓮につき進学、病気、事故その他の事由により特別の費用を要する場合には、その負担について、双方協議して定めるものとする。
この作成例では、子が2人いるので、養育費は月額5万円+5万円、計10万円とし、第一子(長女の凛)が20歳となった翌月からは、養育費の支払義務があるのは、第二子(長男の蓮)のみとなるので、月額8万円とすることを合意しています。
養育費の金額を算定する方法として、いわゆる算定表や算定方式がありますが、これらはあくまでも目安を示したものにすぎませんので、当事者の実情に応じて、算定表や算定方式とは異なる定め方をすることもできます。
算定方式では、親の年収と子の人数、年齢のみで算出することとなっていますので、たとえば義務者が仕事の都合などで高額な家賃を負担しなければならず、食費その他の生活費実負担額が高額となるケースと実家暮らしで家賃、水道光熱費などの住居関係費の実負担がなく、食費も朝夕は基本的に実家のため負担していないというケースでは、生活費の余力にかなりの差が生じると思いますが、収入と子の人数、年齢が同じである限り、算定方式で算定される養育費の金額は全く同じとなります。
算定表や算定方式はあくまでも目安として参照するにとどめ、実際の負担可能額を吟味して養育費の金額を決めるようにしてください。
養育費の計算方法については下記の記事を参照してください。
日弁連は、改定された標準算定方式・算定表について、改定の過程・内容を検証し、養育費・婚姻費用の算定に関する更なる改善に取り組むべきであるとして、2020年11月18日付けで「『養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究』に対する意見書」を取りまとめ、同日付けで最高裁判所長官、法務大臣、厚生労働大臣、司法研修所長宛てに提出しています。一般の方向けではありませんが、実務家(特に調停委員の方)は、必読だと思います。日弁連のサイトをご参照ください。
第3条【解決金】
1 乙は、甲に対し、本件離婚に至るまでの乙の一連の行為に対する解決金として金330万円(以下「本件解決金」という。)を支払う義務のあることを認める。 2 乙は、甲に対し、本件解決金を次のとおり分割して、甲の指定する甲名義の普通預金口座に振り込む方法で支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。 (1)令和〇年〇月から今和〇年〇月まで、毎月末日限り、金〇万円ずつ(合計○○万円) (2)令和〇年〇月から令和〇年〇月まで、毎月末日限り、金〇万円ずつ(合計〇〇万円) (3)令和〇年〇月末日限り金〇万円 3 乙が前項の分割金の支払を怠り、その遅滞額が金〇万円に達したときは、乙は、当然に期限の利益を失い、甲に対し、本件解決金(既払額があるときは、その額を控除した金額)及びこれに対する期限の利益を喪失した日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金を直ちに支払う。
金銭給付の名目を「解決金」としていますが、「慰謝料」とする場合もあると思います。
解決金を分割で支払うということは手元に直ぐに支払える資金がないということが前提ですので、養育費を支払うと、解決金の分割金で支払える金額はあまり多くないというのが実情だと思います。この作成例では、その点を考慮して養育費の支払いが終わったら解決金の分割金(毎月の支払額)を増額するという前提に立っています。
毎月均等に支払えるのであれば、支払額を途中で変更する必要はありません。
第4条【充当に関する合意】
甲及び乙は、乙の甲に対する支払金については、次の順序により充当する。 (1)支払金につき支払期日が到来しているものと支払期日が未到来のものがあるときは、支払期日が到来しているものから充当する。 (2)支払金に係る支払期日が全て到来している場合又は支払金に係る支払期日が全て未到来の場合は、養育費、解決金の順に充当する。
この作成例では、養育費と解決金という名目の異なる金銭給付が必要ですので、このような規定を設ける必要があります。このような規定を設けない場合もあると思います。この点をどうするかについては、公証人に相談してください。
弁護士に依頼する場合は、弁護士が検討すると思います。
第5条【通知義務】
甲及び乙は、養育費及び解決金の支払が完了するまでの間、それぞれの勤務先、職業、住所、連絡先電話番号に変更が生じた場合は、遅滞なく、相手方に対し、その変更内容を通知しなければならない。
この作成例では、通知義務に違反した場合の違約金などは定めていませんが、違反すれば契約違反ですので、賠償責任を負います。当事者は、この規定で定めた事項に変更があった場合は相手方に通知しなければなりません。
たとえば支払義務者が養育費や分割金の支払を怠った場合、督促する必要がありますし、それでも支払わない場合は、給与の差押えなどをする必要がありますが、転職してしまい、転職先が分からないと差押えができません。転職先を通知しなくとも調査する手段はありますが、費用と労力がかかってしまいます。そのため通知義務規定を定めておくとよいと思います。
第6条【財産分与】
甲及び乙は、甲乙それぞれの名義の不動産、預貯金、保険(共済を含む。)その他の金融資産について、相互に分与すべき財産がないことを確認する。
この作成例では、このような財産分与の内容となりましたが、不動産が共有名義となっている場合など、移転登記が必要となる場合もあります。
第7条【清算条項】
甲及び乙は、本件離婚に関し、以上をもって全て解決したものとし、甲乙間において、本公正証書に定めるもののほかには何らの債権債務のないことを相互に確認する。
通常、このような清算条項を入れます。
この作成例では、解決金の支払についての規定はありますが、慰謝料についての規定がありません。しかし清算条項を入れることによって、離婚慰謝料を別途請求することはできなくなります。
清算条項については、以下のページでも説明していますのでご参照ください。
第8条【強制執行の認諾】
乙は、第2条第1項及び第2項並びに第3条第2項及び第3項に定める金銭債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。
いわゆる強制執行認諾文言です。
離婚給付等契約について、公正証書を作成する意義は、この強制執行認諾文言を付加できるからです。
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以上