養育費不払い解消策を法制審に諮問

表題のタイトルの下、毎日新聞の昨日(2021年2月10日)のウェブニュースで次のように報道されていました。

「上川陽子法相は10日、父母の離婚に伴う子の養育のあり方に関する法制度の見直しを法制審議会に諮問した。約140万とされるひとり親世帯の半数が貧困状態にあり、離婚後の養育費不払いがその要因の一つとなっている実態を踏まえ、養育費不払い解消に向けた方策が主な論点となる。夫婦双方が子の養育に携わる『共同親権』を離婚後も認めるかどうかについても議論される見込み。

民法は、離婚時に養育費などを夫婦の合意で取り決めると定める。ただ、強制力はなく、取り決めがなされないことが養育費不払いの一因とされる(※)。法務省の有識者会議が2020年12月にとりまとめた報告書は、養育費の請求権を民法に規定して子の権利として明確化することや、離婚届とあわせて養育費の取り決めを届け出る制度の創設、預貯金を差し押さえるなど強制的な取り立て手続きの負担を軽減する措置の導入などを検討項目に挙げた。

上川法相は諮問に際し、『子を第一に考える視点で、実態に即した検討を期待する』と述べた。」

※強制力はありますので、この点は誤りです。調停や確定審判などがあれば、義務者(多くの場合、父親)の給料を差し押さえたり、預貯金を差し押さえたりすることができます。義務者は、これを免れることは、原則としてできません。

厚生労働省雇用均等・児童家庭局による「全国母子世帯等調査結果報告(平成18年11月1日現在)」によりますと、「養育費の受給状況」について、「現在も養育費を受けている」と答えた人は、わずか19.0%だったそうです。「養育費を受けたことがない」と答えた人は59.1%、「養育費を受けたことがある」(=現在は、養育費を受けていない)と答えた人は、16.0%だったそうです。後二者の合計は75.1%となります(不詳は5.9%)。

厚労省の母子世帯等調査結果報告の「16 離婚母子世帯における父親からの養育費の状況」(厚労省のウェブサイトはこちら)より

養育費の受給率が低くなっている要因については、様々な問題が指摘されています。調停や審判まで時間、費用、労力がかかること、義務者が収入や資産を隠すことがあること、義務者が給与所得者でない場合、差し押さえる財産が分からず、せっかく苦労して調停や審判を得ても事実上、強制できないことなどの要因が指摘されています。また権利者(多くの場合、母親)が義務者とは関りたくないと考えるため、あきらめてしまうというケースも見過ごせない問題であると思います。

報道によりますと、法務省の有識者会議が2020年12月にとりまとめた報告書では、検討項目として、

(1)養育費の請求権を民法に規定して子の権利として明確化すること

(2)離婚届とあわせて養育費の取り決めを届け出る制度の創設

(3)預貯金を差し押さえるなど強制的な取り立て手続きの負担を軽減する措置の導入

などが挙げられたということですが、(3)以外は、ほとんど問題解決の役には立たないと思います。

まず(1)についてですが、民法には、すでに親子間の扶養義務が規定されていますし(877条)、養育費の請求権を民法に規定して子の権利として明確化したところで、裁判手続きに時間、費用、労力がかかるという問題は解消されませんし、義務者が収入や資産を隠してしまった場合、支払を受けられないという現状は変わらないはずです。また子の親権者(多くの場合、母親)が、義務者と関り合いたくないと思っている場合は、やはり問題は解消されません。養育費の請求権を民法に規定して子の権利として明確化することに国家予算を使うくらいであれば、もっと別のことに使っていただきたいと思います。

(2)については、養育費について取り決めをしていても実際には支払わない義務者が相当数います。養育費の取り決めを届け出ることとしたところで、実際に支払う人の割合が増えるとは思えません。

また養育費の取り決めを届け出る制度を導入するとしても、離婚(特に協議離婚)の必須条件にすることには強く反対します。

事情によっては、離婚を早く成立させて、ひとり親世帯として、行政の各種支援が受けられるようにしたいという需要が少なからずあります。養育費の取り決めを離婚の条件にしてしまうと、養育費が決まらないために、離婚できないという事態が発生することが予想されます。そうなってしまうと養育費が決まらないために、いつまでも離婚できず、行政の支援が受けられないということになってしまいます。ひいては、早く支援を受けるために養育費について妥協してしまうという事態も想定できます。こうなってしまうと本末転倒と言わざるを得ません。

(3)については、内容にもよりますが、問題の解消の一助になる可能性はあります。具体的にどのような制度を取り入れるかということが重要です。

この問題は、権利者が、義務者に請求するという仕組みを取っている以上、抜本的な解消にはならないと思います。

たとえば、行政機関(法テラスなど)が、義務者の代わりに支払い、その行政機関が義務者から別途、取り立てるなどの仕組みが必要であると思います。

しかも権利者への支払いは、権利者の請求意思の有無にかかわらず、100%支給するという仕組みにする必要があります。権利者の請求意思により支給するという仕組みにしてしまうと、義務者からの報復を恐れて、請求しないという事態が想定されるからです。

義務者から回収できない場合は、権利者に支払った分は国等の負担となりますが、ひとり親世帯の貧困の問題は、少子化問題と密接にかかわっていますので、必要な負担であると考えます。

しかし上記のような、仕組みづくりは、容易にできるようには思えません。

法制度を変えなくても、裁判所の実務運用及び銀行等の金融機関の実務運用が変われば、相当程度、現状を変更できると思います。

養育費の支給率が上がらない要因の一つは、手続きの煩雑さ(時間、費用、労力がかかること)です。しかしこれは、裁判所の運用次第で変えることができると思います。

養育費の増額に関心のある方は、以下の記事もご参照ください。

当事務所では、養育費に関する法律相談に対応しております。法律相談に関するご説明は以下をご参照ください。

一般法律相談
タイトルとURLをコピーしました