契約書作成のポイント

弁護士が、契約書をレビューするときに、まず意識するのは、裁判(訴訟)になった場合に、その契約書の条項が、機能するのか(どのように機能するのか)ということです。なぜかと言えば、契約上の権利を実現させるのは、最終的には裁判(訴訟)だからです。たとえば売買契約の売主が、売買代金を相手方に支払わせたいと思ったとき、相手方が契約書で取り決めた通り支払ってくれればよいのですが、万一、支払ってくれない場合、裁判所に訴えて、主張を認めてもらう必要があります。そのため契約書をレビューする段階で、裁判所が代金を支払え、との支払命令を出せるような契約書になっているのかという点を検討しています。

裁判になった場合、どのように機能するかという観点から、次の2つのポイントについて、それぞれ説明します。

法律要件(要件事実)と法律効果

はじめに

契約書は、そもそもこの二つのこと(法律要件《要件事実》と法律効果)を契約当事者間で、取り決めたことを証明する文書ということができます。

理論的な説明

若干、理論的なことを説明します。興味ない人は読み飛ばし、(3)からお読みください。
まず契約とは、対立する複数の意思表示(たとえば売買であれば「売りたい」「買いたい」という意思表示)の合致によって成立する法律行為などと説明されます。この法律行為は、法律効果の発生を意欲する意思を表示する行為そのもの、と説明されています。法律行為には、(1)契約のほかに、(2)単独行為(これには相手方があるもの《例;取消、解除、追認、相殺》と、相手方がないもの《例;遺言・寄附行為》とがあるとされています)、(3)合同行為があるとされています。要するに、契約を含む法律行為は、法律効果の発生を意欲する意思を表示する行為であって、その中で対立する複数の意思表示の合致によって成立するもののことを「契約」と呼んでいるということになります。
因みに法律行為の効力要件として、法律行為が有効であるためには、内容が確定できるものであること、内容が実現することができるものであること(→「原始的不能・後発的不能」)、強行法規又は公序良俗(→「公の秩序・善良の風俗」)に反しないことなどが必要とされています。
では、「法律効果」とは、どのようなものでしょうか。これは法律要件とセットになっている概念であり、権利義務関係を発生させる一定の社会関係を「法律要件」、それから生じる権利義務関係を「法律効果」というとされています。
たとえば、売ろう・買おうという意思表示が合致すれば、売買契約という法律要件が成立し、そこから売主の権利移転義務、買主の代金支払義務という法律効果が生じると説明されています。

以上要するに、契約は法律効果を発生させる法律要件について意思表示を合致させること(つまり合意すること)によって成立するものということができます。

実践的な説明

したがって、契約書には法律効果(代金請求権や商品の所有権移転などの効果)とそれを発生させる法律要件(法律効果を発生させるための条件)を意識して記載する必要があります。

法律要件と法律効果はセットですので、どのような法律要件を満たした場合に、どのような法律効果が発生するのかを明記する必要があります。例えば、「商品引き渡しの翌月末日までに代金を支払わなければならない。」と規定しただけでは、支払期限までに支払わなかった場合(法律要件)、どのような法律効果が発生するかの規定がありません。これでは契約書の規定としては不十分ということになります。代金不払いの場合の法律効果としては、たとえば損害賠償請求できるとか、契約を解除できるとか、引き渡した商品の返還を求めることができるなどが想定されます。契約書に明記しなくても、民法などの法律の適用により法律効果が発生するものもあります。しかし民法で想定している法律効果が発生しても契約の実情に合っていないという場合は、契約書でいかなる法律効果を発生させるのかを明記する必要があります。売買の例でいうと、消費材の場合、商品が消費財で返してもらっても意味がないような場合は、契約解除や商品の返還は売主にとって求めることではありません。売主として求めることは代金の支払いであって、定めるべき法律効果としては遅延損害金ということが考えられますが、民法では年3%が遅延損害金の年率となります。これでは不十分と考えれば、これを上回る年率を契約書で定める必要があります。

以上見て来ましたように、契約書の作成時やレビュー時には、徹頭徹尾、法律要件と法律効果が期待したとおりに規定されているかどうかを検討し、チェックします。契約書のレビューは、基本的には、この検討、チェック作業が最大の目的と言ってもよいと思います。
弁護士であれば、この法律要件、法律効果について、感覚的に身についているので、これらの点が適切に規定されているか、あまり意識しないうちに、検討しています。

契約書を作成する際は、法律要件、法律効果について常に意識するとよいと思います。

用語の意味を特定できるようにすること

上記しましたように、契約書は、法律効果およびそれを発生させる法律要件を記載するわけですが、法律要件があいまいであっては、法律効果が発生するかどうかが明確ではなくなってしまいます。契約書は裁判で実現させますので、法律要件があいまいであっては裁判官が法律効果を発生させて良いかどうか迷ってしまうということになります。そのため規定があいまいとならないよう用語の意味を特定できるようにする必要があります。
また契約書は裁判規範として機能させることが目的なので、当事者間ではコンセンサスが得られていたり、説明せずとも理解できていたりする概念であっても、裁判官が理解できなければ意味がほとんどありません。
契約書の冒頭に定義規定があることがありますが、これは曖昧さを避け、裁判官が理解できるようにするためと理解することもできます。

結び

契約書は、ある程度、知識があれば、弁護士でなくても作成できますし、ウェブ上で、無料で入手できるテンプレートが数多くあります。そのため専門的な知識がなくても契約書としての体裁を整えることは可能だと思います。形ができてしまえば、弁護士にレビューを依頼する必要がないのではないかとの疑問を抱くかもしれません。しかし契約書のエッセンスを備えていないものであれば、意味を成しません。時には契約当事者にとって有害な結果をもたらす場合があります。

事業者がかかわるすべての契約書を弁護士がチェックする必要があるとは思いませんが、取引の実情に応じてカスタマイズした契約書、事業者にとって重要な局面となる契約書については、弁護士によるレビューをお勧めします。

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契約書の作成・レビュー費用
当事務所で、契約書の作成・レビューのご依頼を受ける場合の費用についてご説明します。定額制とタイムチャージ制があります。当事務所では、顧問契約となっているクライアント様には、顧問料の範囲内で、基本的な契約書の作成・レビュー業務を行っています。

また契約書作成・レビュー業務が日常的に発生する場合は、当事務所では顧問契約の締結をお勧めしています。

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